JAM STORY(ジャムストーリー)

the story of jam
  • はじめに

ジャム類はパン食と共に食するものとして最もポピュラーな食品のひとつであることは言うまでもなく、日本をはじめ世界中の国々でパンにジャムを付けたり乗せたりして食べることが浸透しています。

いちごやりんご、あんずのジャム、マーマレードは勿論のこと、ブルーベリーやラズベリー等の世界中の果実をはじめ、今では野菜や花弁を原料としたジャム類までも作られ、食生活の多様化や洋風化によりパンだけでなく様々なデザート類や料理に幅広く利用されるようになりました。

本文では、ジャム類に関する語源や起源、お国ぶり、規格などを交えながらジャムについて説明したいと思います。

 

 

  • ジャムの語源と起源

1)ジャムの語源は「グチャグチャかむ」

JAMという英語の語源は、今では使われなくなった「グチャグチャかむ」という意味である「CHAM」という方言といわれています。

 

2)マーマレードの語源は「マルメロ」

マーマレードはオレンジ等の柑橘類の果実を原料としたものですが、ポルトガルで初めてマーマレードが作られた時の原料がマルメロ(ポルトガル語、英語ではクインス)であったのでマルメロが転じてマーマレードになったと言われています。

 

 

  • 旧石器時代人も食べていた

ジャムの歴史は非常に古く、今から1万年~1万5千年前の旧石器時代に人類がハチミツの巣から密を採っている風景がスペインの洞窟で発見され、その後果実を土器で煮た跡が発見されています。

人類の生活の知恵として、果実をハチミツで煮た最古の保存食と言えます。

 

4)紀元前は王侯貴族が珍重

紀元前320年頃、アレキサンダー大王が東征してインドを攻略し、貴重な砂糖をヨーロッパに持ち帰りジャムが作られ、王侯貴族や僧侶が珍重して食べたと言われています。

その後、十字軍のオリエント遠征(1096年-1270年)で大量の砂糖が持ち帰られジャム作りが一般に普及するようになりました。

 

  • ジャムマーマレードのお国ぶり

1)イギリス

イギリスではイチゴが古くから自生しており、ストロベリーの名は10世紀の植物誌にもありますが、イチゴに宗教的な「徳性」を見つけて尊重し中世期から野生のイチゴを庭に移植・栽培することが流行しました。

マーマレードの原料であるオレンジは、15世紀にバスコダ・ガマがインド周航から持ち帰り、その後大量に輸入するようになりました。

また、イギリスは砂糖の貿易を独占していましたのでジャム作りの伝統を誇れることが出来たのです。

英王室ご用達にチプトリー社のジャムとオレンジマーマレード、クーパー社のオックスフォード・オレンジマーマレードがあります。

このオックスフォード・オレンジマーマレードは「英国人の真心」「マーマレードの芸術品」といわれています。

 

2)フランス

フランスでは、ジャムはコンフィチュール(果実の砂糖煮)です。「小瓶に詰めた太陽の輝き」「天使の唇」と詩人が称賛し、王室の正式な晩餐メニューには必ずデザートにはジャムがありました。

19世紀以降の中流家庭では、年中行事として家伝のジャムを作ります。これは花嫁修業のひとつにもなっているようです。

そのようなわけで手作りジャムの伝統を誇るメーカーも数社あり、パリの街角で売っている色々なジャムを包んだクレープやジャムをたっぷりかけたドーナッツを食べる姿などは、寒い季節の風物詩と言えます。

 

3)アメリカ

ヨーロッパ人が移り住んだ国ですからジャムは好まれ、ヨーロッパに劣らない製品が作られアメリカで最も好まれているのは、いちごジャムです。

また、アメリカの子供のお弁当といえば、家庭で最も多く作られているサンドイッチがあります。

これはPB&Jと呼ばれるパンにピーナッツバターをたっぷりと塗り、その上にグレープゼリーを塗ったものです。

 

4)日 本

ジャムは16世紀後半に宣教師が伝えたと考えられています。日本で初めてジャムを作ったのは明治10年東京の新宿にあった歓農局で試売したそうで、商品としては4年後の明治14年のことで、長野県人により缶詰のいちごジャムが作られ、それ以来長野県はジャム作りが盛んになりました。

マーマレードの原料になる夏ミカンは、山口県青海島の海岸に漂着したものを拾い種子を蒔いて育てたもので、原木は天然記念物に指定されています。

4月20日はジャムの日、全国の主なジャムメーカーで構成する日本ジャム工業組合では、長野県北佐久郡三岡村(現在の小諸市)の塩川伊一郎氏が、いちごジャムを明治43年4月20日、明治天皇に献上したと記録があり、塩川伊一郎氏の技術が日本のジャム産業の礎となったと考えられることから2016年に4月20日をジャムの日と制定しました。以後、毎年ジャムの日にはイベントを開催してジャム普及活動を展開しています。

 

 

  • ジャム類の原材料

ジャムに使用される果実は、いちご、りんご、あんず、およびブルーベリーを代表格とするベリー類等が代表的品種であり、主に果実単種で使用されることが多い。

また、ジャム類のうち柑橘類の果実を原料としたものをマーマレードと称しジャムとは区別されています。

わが国で一番多い柑橘類は温州みかんであるがこれをマーマレードにすることは少なく、むしろ外果皮の厚いみかん以外の柑橘類を利用することが多い。

柑橘類の品種としてはオレンジ、グレープフルーツ、夏みかん、甘夏みかん、冬橙、伊予柑、八朔等があり単種で使用されるよりも2~3種類を混合して、其々の柑橘類特有の香味を醸し出す工夫がなされています。

 

  • ジャム類の規格

ジャム類は他の食品と同じく、食品表示基準やJAS規格に従っています。

 

1)食品表示法

現在、ジャム類に関する品質基準や表示基準は食品表示法(2015年4月1日施行、猶予期間2020年3月31日迄)で決められています。

  • ジャム類の定義は、ジャム、マーマレード、ゼリーの3種類に分類されています。(消費者庁 内閣府令別表第三参照)
  • ジャム類の表示に関する事項は名称、原材料名、添加物、内容量等について細かく定められています。

ここでいう砂糖類とは砂糖だけでなく、ぶどう糖や水あめ、異性化糖等を含みます。(別表第四参照)

  • ジャム類の表示で使用出来ない表現についても定められています。(別表第二十二参照)

 

2)ジャム類の糖度

ジャム類の甘さの指標として「糖度」があります。糖度(可用性固形分)とは製品全体に占める糖の含有度を百分率(%)で表したもので、糖用屈折計で測定したもので、日本では、糖度を3段階に分けています。

糖  度 呼  称
糖度65度以上 高糖度
糖度55度以上65度未満 中等度
糖度40度以上55度未満 低糖度

※同じ糖度であっても使用される糖質の種類や酸味料の使用量によって感じる甘さは異なります。

 

3)ジャム類の日本農林規格(抜粋)

適用の範囲:この規格は、ジャムおよびマーマレードに適用する。

 

定 義:この規格において、次の表の左欄に掲げる用語の定義は、それぞれ同表の右欄に掲げるとおりとする。(内閣府令別表第三)

用  語 定  義
ジャム類

次に掲げるものをいう

1.    果実、野菜又は花弁(以下「果実等」と総称する。)を砂糖類、糖アルコール又はハチミツとともにゼリー化するようになるまで加熱したもの

2.    1に酒類、かんきつ類の果汁、ゲル化剤、酸味料、香料等を加えたもの

ジャム ジャム類のうつ、マーマレード及びゼリー以外のものをいう
マーマレード ジャム類のうち、かんきつ類の果実を原料としたもので、かんきつ類の果皮が認められるものをいう
ゼリー ジャム類のうち、果実等の搾汁を原料としたものをいう。
プレザーブスタイル ジャム類のうち、ベリー類(いちごを除く)の果実を原料とするものにあっては全形の果実、いちごの果実を原料とするものにあっては全形又は2つ割りの果実、ベリー類以外の果実等を原料とするものにあっては5㎜以上の厚さの果肉等の片を原料とし、その原形を保持するようにしたものをいう
果実含有率 原料として使用した果実等(マーマレードにおいて、使用した果皮の果実全体に対する割合が通常の果実が有する果皮の割合を超える場合にあっては、その超える部分に相当する果皮を除く)及びその搾汁の重量の製品の重量に対する割合をいう

 

規 格:ジャム及びマーマレードの規格は、次のとおりとする。

区  分 基  準
特 級 標 準
内容物の品位

1.    香味及び色沢が優良であること

2.ゼリー化の程度が適当で、病虫害こん及びへたその他のきょう雑物がないものであること

 

3.    プレザーブスタイルにあっては果実、果肉等の形及び量が適当で、果実果肉等の大きさが、そろっていること

 

4.マーマレードにあっては、果皮の分布が均一であること

1.    香味及び色沢が良好であること

2.ゼリー化の程度が適当

で、病虫害こん及びへたその他のきょう雑物がほとんどないものであること

3.プレザーブスタイルにあっては、果実、果肉等の形及び量がおおむね適当で、果実、果肉の等の大きさがおおむねそろっていること

4.マーマレードにあっては、果皮の分布がおおむね均一であること

可用性固形分 40%以上であること
果実等含有率

1.    ジャムにあっては45%以上であること

2.    マーマレードにあっては30%以上であること

1.    ジャムにあっては33%以上であること

2.    マーマレードにあっては20%以上であること

 

4)ジャム類の品質表示基準(抜粋)

表示の方法

第3条 名称、原材料名及び内容量の表示に際しては、製造業者等(加工食品品質表示基準第3条第1項に規定する製造業者等をいう。以下同じ)は、次の各号に規定するところによらなければならいない。

 

名称

加工食品品質表示基準第4条第1項1号本文の規定にかかわらず、次に定めるところにより記載すること。

ⅰ)ジャムのうち、1種類の果実等を使用したものにあっては当該果実等の名称を冠して「いちごジャム」、「りんごジャム」、「あんずジャム」等と、種類以上の果実等を使用したものにあっては「ミックスジャム」と記載すること。

ⅱ)マーマレードにあっては「マーマレード」と、ゼリーにあっては「ゼリー」と記載すること。

ⅲ)プレザーブスタイルにあっては、ⅰの規定により表示する文字の次に「(プレザーブスタイル)」と記載することができる。

 

5)表示で使用出来ない表現(消費者庁別表第二十二)

①「特級」の用語と紛らわしい用語.2種類以上の果実等を使用したものについて、当該果実等のうち特定の種類のものを特に強調する用語。

但し、果実等の配合の割合が30%以上60%未満の場合において「ミックスジャム」の文字に当該果実等を含む旨の用語を付した商品名を用いる場合及び当該果実等の配合の割合が60%以上の場合において「ミックスジャム」の文字に当該果実名を冠した商品名を持ち散る場合は、この限りでない。

②通常より糖度が低い旨を示す用語。

但し、糖度が55ブリックス度以下のものについて当該糖度を下回らない整数値により「糖度50度」等と併記する場合は、この限りでない。

  • 果実等を多く含有している旨を示す用語。

 

6)オレンジマーマレードの申し合わせ事項

日本ジャム工業組合では、マーマレードの商品名にオレンジの用語を用いる場合、従来の総称としてオレンジを使用していたが内容物が誤認されないよう正確な表示を行うため、オレンジマーレードの商品名について下記のとおり、取り決めています。

 

柑橘類の分類と商品名

ⅰ)柑橘類のうちオレンジは、果樹園芸大百科1カンキツ(農文協編2006)「ダイダイ区」(田中長三郎の分類)の品種を範囲とする。

上記品種を使用した場合、オレンジマーマレードと表示することが出来る。

 

ⅱ)ⅰの「ダイダイ区」の品種以外の柑橘を使用した場合、商品名はマーマレードとすること。

尚、2種類以上のうち、ひとつが「ダイダイ区」の品種以外を使用した場合であっても同様に扱うものとする。

 

ⅲ)ダイダイ区Vのスィートオレンジの範囲であるバレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、ワシントンオレンジ、ブラッドオレンジ以外は個別品名にオレンジと表示しない。

 

※注 酸味付与の目的で使用する柑橘果汁(4%以内)は果実対象外である。

 

柑橘類のオレンジ品種名(オレンジの定義)

ダイダイ サワーオレンジ
スィートオレンジ タンカン
普通オレンジ イヨカン
バレンシアオレンジ ナツミカン
ネーブルオレンジ ヒュウガナツ
ワシントンオレンジ セビルオレンジ
ブラッドオレンジ

※ミカン科の果樹名(園芸学会編より)

 

商品名の区分

使用原料 商品名
オレンジの品種100% オレンジマーマレード又はマーマレード゙
オレンジの品種50%以上 オレンジマーマレード又はマーマレード゙
オレンジの品種50%未満 マーマレード
オレンジ以外の柑橘100% マーマレード
オレンジ以外の柑橘50%以上 マーマレード
オレンジ以外の柑橘50%未満 マーマレード
単品種 〇〇マーマレードまたはマーマレード

 

7)日本のジャム規格と世界のジャム規格との相違

ジャムは保存食なので糖類の含有率が一定以上のジャムと定義づけていました。昭和41年の日本農林規格(JAS)では、糖度(可用性固形分)が65%以上であることが規定されていました。しかし、日本の消費者の嗜好には甘さ離れという流れがあり、低糖度ジャムが注目されるようになり、メーカーは従来とは異なる原材料を使用し状態や保存性を保持しながら風味を向上する技術開を開発して、日本独自の製品が誕生しました。

昭和63年には日本農林規格(JAS)が改正され、糖度(可用性固形分)が40%以上のものもジャムとして認められ、糖類に関しても糖質系甘味料は全て使用可能となり甘さも多様化が進みました。

現在、海外におけるジャムの基準はCOODEXで定められ糖度(可用性固形分)60%以上となっています。

 

  • おわりに

ジャム類に関する語源、お国ぶり、ジャム類の規格について話をまとめました。

ジャムとは果実に砂糖類を加え、加熱濃縮することによって酸とペクチンの力によってゼリー化した食品です。

日本でのジャムは、糖度40度以上をジャムとして、ジャムの美味しさは甘さではなく果実の量として、欧米に先駆けて新しい時代のジャムを作り上げ、今や日本のジャム産業の技術は非常に進歩し先輩の欧米を追い越した感があります。

このように日本の技術が進歩したのはメーカーの努力もさることながら、味に厳しい消費者の皆様のおかげでもあります。

また、健康に良いヨーグルトに甘味料の代わりにジャムを加えるだけで、体に優しく美味しいフルーツヨーグルトがお楽しみいただけます。

ジャムは嗜好品ですから糖度の高い伝統的なジャムから甘さを極度に控えた超低糖度のものまで幅広く作られています。

それぞれの好み応じて種々の果実を組み合わせることで多彩なジャムを楽しめることができバリエーションも限りなく広がるのではないでしょうか。

ヨーロッパで保存食として始まったジャムですが長い歴史の中で地理的な影響や文化の影響を受けながら技術の進歩とともに進化・多様化してきました。

今後もジャム類の可能性に大いに期待したいと思います。

(2021年日本ジャム工業組合寄稿)