イギリスのお菓子について

第3回 ショートブレッド

ショートブレッドはスコットランドの伝統的なお菓子で、バターがたっぷり含まれた、リッチな味わいのビスケットです。
イギリス全体で長く愛されるお菓子であり、その歴史は古く、発祥は12世紀と言われています。

当時はパンを作る際の余り生地を低温のオーブンで堅くなるまで焼き、「二度焼いた」を意味する古いフランス語の”biscuit”に由来して、「ビスケットブレッド」と呼んでいました。
そのうちにイーストがバターに代わり、「ショートブレッド」と呼ばれるようになったのです。

ショートブレッドは高級品で、一般人にとっては結婚式やクリスマス、新年などでのみ饗される特別な食べ物でした。
現在のスコットランドでも、新年の最初の訪問客が幸運を運ぶというファースト・フットの風習において、ショートブレッドは食べ物の象徴として「飢えないように」という願いが込められ、欠かせない持参品となっています。

また、北部にあるシェトランド諸島では、新婦が新居の敷居を跨ぐ際にショートブレッドを頭上で割る風習があったと伝えられています。
もし小さなピースに割ることができれば、その結婚は実りあるものになるだろうと言われていました。

そんな国民の風習や歴史に強く結びついたショートブレッドですが、今日の私たちが知っているような現代風のものになったのは、16世紀のスコットランド女王メアリー・スチュアートの功績だとされています。
女王お抱えのフランス人シェフが、バターをたくさん加えるなど、メインの材料について大幅に改良したのです。
バターはその後のイギリスでショートブレッドの品質を決める重要なポイントとされ、1921年に「本物のバターから51%以上の脂質を取って作られた商品しかショートブレッドと呼んではいけない」と法律で定められました。

元々円盤状だったショートブレッドの形は、「ペティコートテイル(petticoat tails)」、「ショートブレッドラウンズ(shortbread rounds)」、「フィンガーズ(fingers)」の3つの成型に分類されるようになります。
メアリー女王は、まるでホールケーキをカットしたかのように三角形のピースが集められた形の「ペティコートテイル」を大変好んだと伝えられています。

(写真・文 杉本悦子)

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